百冊026:創始者たち
オンライン決済サービスの黎明期の現場を描いた本
本書は、主にピーター・ティール、マックス・レヴチンとイーロン・マスクを中心にペイパルという会社の立ち上げを描いています。
最近、「無能より邪悪であれ」(ピーター・ティール シリコンバレーをつくった男)を読みました。確かに、ピーター・ティールの投資家としての才能は素晴らしいと思いました。しかし、彼自身にはそれほど興味が湧きません。なぜなら、彼の政治活動やロビー活動がシリコンバレーに与えた影響は大きいと思いますが、それは他の誰かでもできるように感じたからです。
私が興味を持っているのは、新しい会社が競合他社を退けて生き残る理由です。なぜ、その会社が競争に勝てたのでしょうか。もちろん、マーケティングや広告が優れていることも必要でしょう。しかし、根本にあるのは、コンセプトと技術力だと思っています。
「創始者たち」は、その生き残る理由を明らかにしてくれます。著者ジミー・ソニの情報収集力と細部の描写が素晴らしく、開発現場の熱気や混乱した状況が伝わってきました。私が見る限り、ペイパルが存続したのは、問題解決能力に優れたマックス・レヴチンの技術力にあったと考えています。
ペイパルとは
本書は、「コンフィニティ」「X.com」という2社が合併して「ペイパル」となる経緯を、綿密な取材によって解き明かしています。
- 1998年 コンフィニティ社創業
- 1999年 X.com社創業
- 2000年 X.com社とコンフィニティ社が合併し、X.com社となる
- 2001年 X.com社をペイパル社に改名
- 2002年 eBayの子会社になるが、2015年7月に再び独立
2023年12月時点(1ドル150円換算で)で、
- 総売上 297億ドル(4兆4550億円)
- 税引前利益 42億ドル(6300億円)
ネットバブルを生き残っただけでなく、大手決済サービス会社となっています。
1990年にインターネットへの加入制限が撤廃され、日本でも1993年に商業利用が開始されました。
さらに、1995年11月23日に日本でWindows95が発売されたことで、インターネットの利用が一気に広がりました。インターネットを利用したサービスが次々と生まれました。中でも、販売、検索などのサービスサイトで激しい競争が起こり、その中からAmazonやGoogleが勝ち上がっていきました。
当然、その次にくるサービスとして、金融とIT技術を組み合わせるFinTechに注目が集まる時期が来ていました。イーロン・マスクもピーター・ティールも、1998年から1999年の絶妙なタイミングでオンライン決済サービスを創業しています。彼らには、2000年の時点で、間違いなく未来が見えていたのでしょう。
紆余曲折。綱渡りの開発
技術開発の中心人物は、マックス・レヴチンです。
1998年にコンフィニティ社が設立された時、製品として開発したのはPDAのPalmPilotで支払いをする技術だったらしい。しかも、PalmPilotの赤外線通信ビームを介して他のPalmPilotに送るスキームだった。モバイルでの決済は、2024年現在であれば最も成長している分野だから、目の付け所は間違いなかったと思うが、環境が整っていなかったから普及はしなかった。
サービスが拡大するきっかけは、電子メールアドレスに送金できるという枠組みだった。しかし、気軽に使えるということは、攻撃を受ける可能性は非常に高くなります。自動プログラムによるパスワードのブルートフォース攻撃は、初期に多く行われました。この攻撃に関しては、アクセスが人間かプログラムか判定できれば良いので、CAPTCHA(completely automated public Turing test to tell computers and humans apart)が有効な方法でした。その商用実装を行ったのがレヴチンでした。
現在のようにディープラーニング技術の発展により音声認識や画像認識が簡単になると、CAPTCHAは有効ではないかもしれませんが、2000年代初めに商用実装した技術力はその時点では突出していたと思います。
2024年の今振り返ってみると、2000年初めに決済サービスを立ち上げた、彼らの先見性はとてつもないと言えます。そして当時よりも、さらに影響力を増した彼らの力が本物であったことを証明していると思います。
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