本>ウェブ時代をゆく

多くの人は組織などに属さず、自分の裁量ですべてを決めて、自分が面白いと思うことを実行して、生活する金を得られれば、それに越した事はないと思っている。しかし、現実はそれを許してくれない。個人で仕事をして生計を立てられるのは、一般人が簡単に到達できないような専門的な能力を持った一部の人たちだけだ。

しかし時代は変わる。本書では、組織を離れて一人で仕事をしていくことが、ウェブ時代になって確実に敷居が低くなったことを強調し、若い人たちに「好きなことして働こう」と呼びかけている。

ウェブ時代をゆく ─いかに働き、いかに学ぶか (ちくま新書 687)
梅田 望夫
筑摩書房
2007-11-06
定価 ¥ 777
おすすめ平均:
わくわくする、たとえそれだけだとしても価値がある
楽しく逞しく時代をサバイブするすべ
私もこの変化する時代の流れの中で,自分の人生を柔軟に対応させていきたい。
powerd by Amazon360

本書に反応して、大企業から脱出していく人が増えていけばと願っています。そして、企業に勤めるよりも個人で仕事する方が、楽しくて収入も安定して多いとなれば、どんどんそういう人が増えて、社会的な立場も強くなるでしょう。


本書で一番の読みどころは、著者自身の体験が書かれている「第四章 ロールモデル思考法」だろう。なぜ経営コンサルティング会社に就職したか、そこで如何にサバイバルし、そして独立したか。著者も自分の頭でビジネスを考え、自分で売り物を作り出し、自分で営業し、顧客から金を取ってきたのである。これがウェブ時代になり更に簡単にできるようになるのである。

本書のキーワードについて感じたことをいくつか書いてみる。
「高速道路」「渋滞」
ウェブによる知識の共有が高速道路を作り出し、その先で渋滞をするというイメージは、実はあまりピンとこない。私のイメージするのは、各分野ごとに山があり、その8合目まで行けるような道路がウェブによって作られたという方が理解しやすい。誰でも8合目まで車で簡単に行けるものだから、8合目まで行ってみると人がたくさんいる。みんな頂上まであと少しだと思ってがんばって登り始める。頂上への道は1人しか通れないので、とても混雑している。頂上まで辿り着くには、他の人を蹴落とさなければいけない。昔のように誰もついてこれない孤高の道をひっそりと登るのではないのである。

「けものみち」
辞書を引くと、「けものの往来によって、いつの間にかできた山中の細い道。」である。しかし著者のイメージするのは、ちょっと違うものではないかと感じた。つまり、人の通らない細い道を歩いて行こうというより、自分で細くて良いから新しい道を、道のないところに作っていこうということではないかと。今まで人が歩いたことのない新しいジャンルを切り開いていこうという気概が感じられる。

最後に、私が理想とする個人ビジネスの形態について、書いておきたい。著者の例をあげると、経営コンサルティングというのは、結局企業から金を取ってくることに尽きる。すなわち企業が集めてきた金の一部を回収していることになり、どうしても企業というものへの依存度が生じる。本来望ましいのは、実際に利益を享受する人から、直接金を回収することである。飲食店のようなビジネスはわかりやすい。お腹がすいた人に食べさせてお金を回収するのだから。ウェブ時代には、企業などを介さず、直接利益を享受する人からお金を受け取れるようになればすばらしい。オークションの仕組みは、まさに個人ビジネスをするためのインフラである。モノでも良いし、デジタルコンテンツでも良い、それを多くの人に販売し、お金を回収する仕組みが完備していれば、個人ビジネスは行える。ただし、相当な量を裁かなければ難しい。だから実際には、リアルでの回収を併用することになる。場合によっては、ウェブは営業用ツールで実際はリアルで回収する場合の方が多いかもしれない。本書の中に出てくるミュージシャンもファンとの交流ツールとして、ネットを使い、実際に金を回収するのはコンサートである。また、ブログを仕事として書いている人もその報酬の回収は、本であったりする。プログラムを無償で公開している人は、そのカスタマイズやサイトの構築を請け負って金を回収したりしている。当面は、ネットで無償、リアルで回収が続くだろう。とにかく、間に企業を挟まないことが、新しいネット社会に移行するためには、必要だろう。

最後に一言
この本は若い人に向けて書いたのでしょうが、私には年寄りにこそ読ませたい本だと思いました。若い人は、企業での修行がまだ必要でしょうが、今年から定年を迎える団塊世代の中の10%の人たちは、おそらく著者のいう「けものみち」を進ませるのに今最も適した人たちになるでしょう。資金がそこそこあり、コンピュータを使い始めた最初の世代であり、何よりも時間が一杯ある人たちなんです。きっとその人たちが、自由で知的な社会への先鞭をつけてくれることでしょう。

2007年12月02日 | Posted in , 電脳 | | No Comments » 

関連記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください