百冊016:Google誕生

コンピュータ・ビジネス関連本百冊を紹介する第16回目は、「Google誕生」です。80年代、90年代と最近の新興企業の違いは、その成長速度が加速していることでしょう。Googleの2005年の売り上げ約7000億円に対して純利益が1700億円くらい、粗利率24%もあります。2006年は、売り上げ約1兆2千億円、純利益が3600億円くらい、と大幅に更新しています。ある人の予測では、2009年に2兆円の売り上げで7000億円の利益になるらしい。(この売り上げは、北米以外も含まれていて、その割合は40%程度だが、増加傾向にある。)

Google誕生 —ガレージで生まれたサーチ・モンスター
デビッド ヴァイス
イースト・プレス
2006-05-31
定価 ¥ 2,400
おすすめ平均:
グーグルストーリー
Googleは管理部門も世界トップクラス
事実は小説よりも奇ではない
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この本を読むと、Googleの2005年までの動きがわかります。もちろん面白いのですが、それほど深みはありません。一般向けなので、仕方ありませんが。。。 この2週間ほど、Googleの成功と今後の戦略に関して、かなり考え込んでしまいました。まあ、私が考える必要はないのですが。。。


まず、成功の原因について考えてみました。

(1)brute forceという戦略
つまり虱潰しで探索する。検索をするために、まず世界中のすべてのページをダウンロードしてきて、それからインデックスを作るという方式。逆に言えば、あまり考えずにクローラーを使って、とにかく力任せに情報を集める。これは、ページランクを考えるより、ずっとGoogleにとって重要な決断だったと思います。どのくらいWebページが増加するかわからないけれど、そのすべてを収集してくるという決意です。
しかし、この戦略がムーアの法則に従ってそこそこのコストで実現可能と、1998年の時点で見極めたところに頭の良さを感じるのです。また、始めるタイミングも良かったのでしょうが、そのタイミングを計るのも運ではなく、勘が良いと思います。現在のようにブログがあると、Webページの増加も、半端じゃありません。昔はページを更新するにもそれなりの工数がかかっていたので、それほどの増加量ではなかったと思います。

(2)コンピュータのハードとソフトの最適化
インターネット関連の企業は、ソフトにかなり力を入れている、というかデザインだったり、マーケティングのメカニズムに注力するが、ハードはあまり考えていないところが多い。昔だと、Sunのサーバーを購入するようなことしか考えない。ところが、ハードの陳腐化というのは、非常に激しいので、ここに投資する額を間違うと、致命傷です。2001年ころネットバブルがはじけるのも当たり前です。実際は、インテルCPUを使った普通のマザーボードとその時出回っているハードディスクを組み合わせて、linuxを使えば、圧倒的に構築コストは安く済んだのです。信頼性は低くとも、多重化することで、十分仕事はこなせます。そういう意味で、Googleは非常に賢明でした。ハードとソフトの両方にバランス感覚をもっていたことが勝因です。LinuxのサーバーにオープンソースのDBを使い、ほとんどコストをかけずに、大量のマシンを動かしていたのです。ハードディスクというのも、半年くらいするとビット単価が半分くらいになるので、次々と新しいハードディスクを導入することで、どんどんコストは下がるのです。それをハードメーカーから購入していたのでは、かなり高いコストを払うことになります。

(3)二人の創業者はあらゆることに興味を持っていて、お互いを補完する。
知的好奇心旺盛なサーゲイ・ブリンとラリー・ページ。今までも、コンピュータ業界は、二人の創業者によって立ち上げて大成功した例がかなりあります。Microsoftは、ビル・ゲイツとポール・アレン。Appleは、スティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアク。この組み合わせは、技術のわかる営業マンとスーパー技術者の組み合わせでした。漫才で言えば、定番のボケとツッコミ。Googleの場合は、例えがはずしているかもしれませんが、お互いボケとツッコミができる。技術だけでなく、金のことも、株のことも、料理、医学、メディア、ビジネスなどあらゆる方面に興味を持っている。その結果、二つの名だたるベンチャーキャピタルをコントロールしたり、上場を自分たちの思惑通りに運んだり、なかなか戦略的です。
AppleやMicrosoftの二人は、やがてそれぞれの道を進むのですが、この二人はどうでしょう。Googleという会社がある限り続きそうな気がします。もちろん、そういう前例はシリコンバレーにもあります。ヒューレット・パッカード(HP)です。

(4)広告ビジネスモデル
北米の検索マーケティング市場規模が2006年で1兆2千億円ほどあると、検索エンジンマーケティングの協会SEMPOが発表している。この1兆2千億円をGoogle、Yahoo、MSNで分けている。このうちの半分はGoogleのようです。
日本の広告市場規模は約5兆8千億円で、現在のインターネット広告のシェアは10%台。今後DVRの普及による広告飛ばしや検索連動型インターネット広告の効果の高さから、TV広告を抜く可能性があることを考慮すると、少なくとも日本においてインターネット広告は2兆円程度の市場規模はあるでしょう。これで、電通、博報堂の独占から、数年後には業界が様変わりする可能性もあります。
Yahooの成長に陰りが見える中、Googleが伸びているのは何が理由でしょうか。ポータルサイトよりGoogleの検索サイトのアクセスが単純に増加していることもあります。しかし、最近の売り上げの半分は、Adsenseのような広告の表示先、露出先を増やす仕組みによるものです。Yahooも遅れて始めたようですが、すぐには追いつかないでしょう。
このAdsenseとAdwordsの組み合わせによるビジネスモデルの強力さは、広告市場のマーケットプレイスの完成だからでしょう。広告を出すもの、広告を届けるものが、Googleというマーケットプレイスに集まってきて、取引が成立する。その取引の手数料を受け取るのがGoogle。マーケットプレイスという概念は、90年代後半はやりましたが、buyer,sellerの両方が集まらなくて、終わってしまったものが多い。成功例は、AmazonとE-Bay,Yahoo Auctionでしょうか。しかし、こういう物を販売、交換する仕組みは、様々なトラブルや手数料がかかるので、システムを維持するためにかなりコストもかかります。しかし、Googleが始めた広告のマーケットプレイスは、交換するのはテキストだけ。しかも簡単にグローバルな展開ができる。これは、当分成長が止まらないでしょう。情報のマーケットプレイス、知らせたい人と知りたい人をつなげ、仲介料をとる。Googleが行っているのは、つなげるためのロジック、支払いのメカニズムを開発しているに過ぎない。
こう考えてくると、この知のマーケットプレイスの応用編は広告業界以外の業界でも通用するのではないでしょうか。

ここまで、Googleの成功要因を自分なりに深堀してみたのですが、いかがでしょうか。しかし、この本の紹介にまだなっていません。本の中には、20%ルール(本業以外の自由な研究を週1日行う)、料理が無料でおいしい、Googleの遺伝子探索への応用、などちょっとしたエピソードがいろいろあるので、是非読んでください。損はしません。ただし、20%ルールは昔からあることで、Googleの特長というほどではないと思います。

最後に、ある人からGoogleはやめる人が少ない、という情報を得ました。これはおそらく本当だと思います。なぜなら、収益をあげるメカニズムは既に完成していて、業界は2,3社に寡占化しているからです。これは、会社のほんの一部の人が努力するだけで収益があがるのです。それ以外の人は、自分が興味あることを会社でできるので、やめるわけがありません。次の新しい収益源を開発するために、本業以外の人を使います。ただし、こういう企業に入った人から第二の柱がでてくることは稀です。楽をしていると、そういうことはできません。きっと、面白いことを外でやっている人を買うようなことが今後どんどん続くのでしょう、YouTubeのように。あれだけ現金を持っていると、使わなければいけません。
 
(追記)今後のGoogleを占う意味で、参入障壁があります。1998年の時点では、誰でも参入できたと思います。しかし、2007年現在ほとんど参入は不可能ではないかと。。。それは、利用者の数、知名度、協力者(Google Adsenseなどの)が膨大だからです。加えて、巨大なデータセンタです。これは、後から参入することとを非常に難しくしています。昔なら可能でも、今は相当な資金がなければ作れません。これは、Amazonも同じです。巨大な配送センターは、これから作ることは非常に難しい。インターネットの仕組みが問題なのではなく、インクリメンタルに投資して巨大化したデータセンタや配送センタ、これがGoogleやAmazonの市場への参入障壁となっているのでしょう。

2007年02月25日 | Posted in 電脳:百冊 | タグ: No Comments » 

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